ワザリング・ハイツ ~本館~

Something childish, but very natural.

日本文学

山尾悠子『夢の遠近法』を読む

私が山尾悠子の『ラピスラズリ』を手にとったとき、彼女の著作はまだそれしか文庫化されておらず、ほかの作品は絶版となって手に入れるのが難しかった。それから徐々に時間をかけて山尾の作品は復刻され、amazonの紹介作品としても頻繁に眼にするようになっ…

伊良子清白『孔雀船』を読む

ジョージ・オーウェル学会の会長さんと飲んだときに、伊良子清白はいいよ、あれは本当にいい、と言われ、読んでみたらすぐにその理由がわかった。たとえば西洋の詩は、形式に支配された伝統の上に詩が築きあげられてきた背景があり、それはそれでとても美し…

多和田葉子を読む

多和田文学を考えるうえで、非常に参考になるよい記事がいくつか見つかった。あとで参照する意味も込めてここに残しておきたい。 urotado.hatenablog.com www.newsdigest.de magazine-k.jp www.nikkeyshimbun.jp lithub.com ⇒多和田葉子『飛魂』を読む - ワ…

柳美里『ゴールドラッシュ』を読む

酒鬼薔薇事件のことはよく覚えているし、この時代のダウナーな空気を吸って生きてきた私としては、ここに描かれた世の中はわりと身近なものであったと言える。キレるという言葉が毎日のように報道で踊り、バタフライナイフが流行し、援助交際が話題となり、…

村上春樹『ノルウェイの森』を読む

だれにでも特別な一冊というものはあるだろうし、それは決して世の時流や年月の影響を受けず、いつまでも特別でありつづけるものだ。私にとっては『ノルウェイの森』がそのような小説である。二十歳当時の心のさざめきと時代の空気がこの作品を読むと今でも…

円城塔『道化師の蝶』を読む

数理分野の研究者でもあった円城は、論文に書けなかったものを小説として膨らませて作品を書くのだという。確かに彼の冗長な文章を追いかけていると、ある事象についての円城自身の仮説を読んでいるかのような印象を抱く。「松ノ枝の記」では、自分の思考を…

多和田葉子『飛魂』を読む

多和田の文学について書いたのはもう五年近くも前になるが、そのときに指摘したのは、言葉のもつ不確かな性質、あいまいさについてであった。それはたとえば、「つくえ」という物体をあらわすとき、「机」と「desk」のどちらの方が“より「つくえ」らしいか”…

吉本ばなな『キッチン』を読む

大学生の時なのでもう13年も前のことである。いまでもよく覚えているのは、大学近くの、いまはもうなくなってしまったカフェでひとり「キッチン2 満月」の一節を紙に書き写したことである。それを財布のなかに大事にしまって、数年のあいだもち歩いていた。…

野本寛一『神と自然の景観論』を読む

「神々の風景」は総じて変貌が著しい。それは衰微・荒廃してきているといって間違いない。その変貌と衰微は日本人の「神」の衰微であり、日本人の「心」の反映にほかならない。すべての環境問題の起点はここにある。自然のなかに神を見、その自然と謙虚に対…

谷崎潤一郎『吉野葛・蘆刈』を読む

抱きあわせの小品として岩波文庫に収録された両作は、同じ「奥」の秘密に分入る昔語りの物語である。和辻哲郎の記事でとりあげたように、「奥」というのは日本文化において特異な意義をもち、つねに位相の高い場所として表現されてきた。奥の間、奥座敷とい…

松浦寿輝『幽』を読む

本屋で偶然見つけた作家である。こんな美しい文章を書く作家がいたのか。東大の研究者でもあり、非常におもしろい著作を多く生みだしているひとでもある。『折口信夫論』や『口唇論』といったすぐれた論考では、作家の卓越した言語感覚も然ることながら、非…

夢野久作を読む

『ドグラ・マグラ』だけでなく、「瓶詰の地獄」や「死後の恋」もまた、自己の基盤が足元から崩れさるような物語であった。夢野久作はそれを“生来の運命”に紐づけて語り、多くの作品で家や出生の問題を中心に据える。『ドグラ・マグラ』の面白いところは、ほ…

唐辺葉介『死体泥棒』を読む

小説として出版されている瀬戸口(唐辺)作品のうちで最もよい作品だと思う。彼の物語は総じて同じ主題を追求したものなのだと改めて感じる。個人的には、小手先だけでいろんな主題を書き分ける作家が大嫌いなので、血を流しながら同じ主題を何度も何度も書…

橋本紡『半分の月がのぼる空』を読む 続

文春文庫版には収録されていない、完結編とも言える挿話を収録した、電撃文庫版『半分の月がのぼる空 6』のレビュー。いろいろな局面で立ちどまっていたひとたちが、もう一度走りはじめるまでを追いかけた本巻も、相変わらずすばらしい仕上がりとなっている…

川端康成『眠れる美女』を読む

川端康成は日本ではじめてノーベル文学賞を受賞した作家であった。そのこと自体は誰でも知っているだろうが、こんなに気持ちの悪いことばかり書く作家が、日本の文学を象徴すると国外で認められた事実に自覚的であるひとは少ないのではないだろうか。私はと…

柄谷行人『日本近代文学の起源』を読む

本作を読んでの一番の収穫は国木田独歩の描写にふれることができた経験であった。独歩の描写をひきながら展開する「風景の発見」も然り、「内面の発見」、「告白の制度」と、どれもかなり力のある論考だったという所感。一年ぶりに読み返してみて、以前より…

堀江敏幸『象が踏んでも』を読む

堀江先生の姿は何度もお見かけてしており、こちらが一方的に身近だと感じている作家でもある。私の先生の友人である日本文学の先生も、いま日本で一番いい小説を書くのは堀江だ、と酒の席で言っていた。確かに堀江先生の受賞歴はすさまじい。本当に日本人っ…

橋本紡『半分の月がのぼる空』を読む

私は不治の病ものに弱いので「くるぞ、くるぞ・・・・・・ほらきたー」みたいな展開できちんと泣ける訓練された読者である。不治の病ものは大きな主題が明確に決まっているので、その単純明快な主題をどれほど奥深いものにできるかは作家の器量にかかっており、二…

多和田葉子 「ゴットハルト鉄道」を読む

多和田葉子がすごい作家だというのは経歴を見ても一目瞭然だが、彼女の作品をいったいどのように読もうか?と考えた時、ようやく彼女の本当の魅力が理解できたような気がする。これはあくまで個人的な体験だけれども。いずれにせよ、国内での評価も然ること…