ワザリング・ハイツ ~本館~

Something childish, but very natural.

夢野久作を読む

別館で書いた夢野久作についての記事を本館に移しました。

kandliterature.hateblo.jp

ドグラ・マグラ』の面白いところは、ほかの誰でもない“私”の歴史的自己を、他者が形作り、他者が語り、他者によってしか証明されえないものとして問題化したところにある。本来であれば“私”の歴史は“私”によってしか語りえない。“私”の歴史を経験した主体は唯一“私”だけなのであり、そこに他者の入りこむ余地はないのである。しかしながら『ドグラ・マグラ』では、自己同一性の源である自己の歴史的背景が他者によって握られており、そこに“私”はアクセスできない、という矛盾が語りだされる。いまでこそ記憶喪失の人物は物語の定番となりつつあるが、百年近く前にすでにその主題を扱い、精神病理を前景化した物語を書いた夢野久作の先見の明には感服する。