ワザリング・ハイツ ~本館~

Something childish, but very natural.

松浦寿輝『幽』を読む

松浦寿輝『幽』の記事を本館に移しました。

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『幽』を読んでいてまず興味をひいたのは、伽村の借りた家が非現実的な亜空間として描かれているところであった。これまで一度も見たことのない部屋がふいにあらわれたり、そばの家に住む沙知子の部屋と家の廊下がつながってしまったりと、自分の住む家でありながらも全体像が把握できない、ある種の外部として住居が捉えられるのである。すなわち、本来は自分の手のゆき届く“うち”であるはずの家が、“そと”に向かって開かれた場としても機能しており、本質的な家の性質を内側からゆさぶる磁場となる。それは永瀬というよく知りもしない仕事仲間から借りた家だという事実にも起因するのであろう。伽村の住まう家ははじめから伽村の外の世界に属する場であり、そこに伽村がふらりとやってきて身を落ちつけてしまった――言うなれば家を自分にとっての“うち”にしないまま仮の宿とする、伽村の気まぐれな心持ちと強く響きあっているのだと言える。